日 録

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 新年度の繁忙の塵裡に閑をぬすんで、わたしにとっては新情報の多い長谷川秀樹『コルシカの形成と変容』(三元社)、およびジャニーヌ・レヌッチ『コルシカ島』(クセジュ文庫、長谷川秀樹・渥美史訳)をたのしみに読んだ。
 これらの書物の一般的な有用性はみとめておいたうえでだが、非常に残念に思ったところがあるので、しるしておきたい。それは、すくなくとも『コルシカの形成と変容』の執筆時には、長谷川氏はどうやら、イタリア語(やコルシカ語)の語強勢の位置が、語末からふたつめの音節(paenultima)に(ほとんど)固定していると誤解しておられたふしがあるということだ。
 たとえば、いきなり「はじめに」で出てくるのだが、「父の時代に島を追われて、ナポーリに亡命し、そこで青年期を過ごしたパオリ」(13ページ)というくだりがある。Napoli では語末から3つめの音節(antepaenultima)に語強勢が来ることは、イタリア語の初級の授業で出てくる常識だ。したがって、語強勢音節にカタカナで長音符をつけたければ、どうしても「ナーポリ」としるさなければならない。ナーポリがイタリア屈指の大都市であることを考えると、これはイタリア語にかんする知識であると同時に、イタリアにかんする知識というべきであろう。「ナポーリ」などという表記をみると、直感的には、「ナポーリってどこやねん?」と反応したくなる。
 たかが語強勢の位置と思うかもしれないが、このようなことの重要性は、言語研究に思い入れのあるひとにはわかってもらえると思う。率直にいって、この程度のイタリア(語)の知識のもちぬしが、コルシカ研究をしてよいのだろうかと思ってしまう。

 じつは、それどころではない。もっとおどろいたことに、当の「コルシカ」のコルシカ語による発音さえまちがえているのだ!コルシーガ」という表記が随所にみられる(たとえば同書135ページ、185ページなど)が、これもたいへんなまちがいだ。Corsica の語強勢もまた antepaenultima にくるので、カタカナの長音符で強勢位置を示したければ、ただしくは「コールシガ」としるなさければならない。
 コルシカのひとびとに、「コルシーガ」なんて言ってしまった日には、それこそ、ご本人が危惧なさっているとおり、「眉をひそめられる」(同書214ページ)ことは必定だろう。呵呵。