日 録

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 雨のち晴れ。晴れてからはあたたかくなる。

 つくばに出勤する途上、千代田線の車中で、一昨年、ウズベキスタンに出張したときにたいへんお世話になったHさんに偶然会って、下車なさる駅までしばらく話す。

 正午過ぎに大学に着き、たまっていた書類しごとをいくつかかたづける。

 午後は、交流協定先のフランシュ=コンテ大学にいっておられた学生のMさん、Tさんがわたしの研究室をたずねてきてくれて、昨年7月以来ひさしぶりに再会する。4月の新入生ガイダンスに上級生としてご協力いただくことなど、いくつか相談があり、話す。
 ブザンソンのおみやげに、お茶を買ってきてくださった。緑茶なのにオレンジの皮などでかおりづけされた、フランスでしか買えなさそうなお茶だ。お店の名まえ La petite cuillère にそえて、épicerie (très) fine と書かれているのもしゃれている。

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 どういうわけか2月中旬から、にわかに、わたしのフランス留学時代にお世話になった先生(2月12日の日録で言及した「熱心な先生」がこのかただ)とメールでよく議論をするようになった。それがたいへんおもしろい。すぐにでもここに転載したいくらいだが、だいじなところは将来の論文の素材としてあたためておくことにする。
 さしつかえのないことだけ書くと、2012年の拙論「叙想的時制と叙想的アスペクト」( http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/M11/M1105798/8.pdf )や、2013年の拙論「主語不一致ジェロンディフについて」( http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/M11/M1153710/7.pdf )で便利につかわせていただいた、中村芳久先生(金沢大学)が2009年のご論文「認知モードの射程」で提唱なさっている「Iモード」(Interactional mode of cognition)と「Dモード」(Displaced mode of cognition)の概念が、シャルル・バイイ Charles Bally の著書 Le langage et la vie(初版1913年)で提示しているという「経験モード」(mode vécu) と「純粋モード」(mode pur) に比せられうるのではないかという気がしてきた。
 はずかしながら、これまで、バイイといえば、modus と dictum の概念を提唱した著書、Linguistique générale et linguistique française しかまともには読んだことがないことに気づき、これはまずいと思い、図書館の旧分類(東京教育大学からうけつがれた蔵書)から借りてきた。
 この版は1965年にジュネーヴの Droz 書店から刊行された覆刻版だ。

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 しかし、第1章(33ページ)までしか読まれた形跡がなく、それ以降は2ページごとにつながったままだ(伝統的なフランス綴じの本は、つながったページの上端をペーパ-ナイフで切りひらきながら読む)。

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 刊行から49年も経つまで開かれたことがない本を、わたしがはじめて切りひらいて読むことになるとは、それだけでも気分が昂揚するというものだ。

[3月7日追記] 蚤取り眼でさがしつづけたが、おどろいたことに、Bally 自身は、mode pur / mode vécu という用語をもちいていない。
 A. Hübler (1998) ; The Expressivity of Grammar, Benjamins. でかなり長い引用とともに紹介されているにもかかわらず、その引用中にも mode pur / mode vécu は出てくるわけではない。どうも、Hübler が Bally の考えをまとめなおして作りだした用語らしい。
 しかし、これ以降は、メイナード泉子 (2000) :『情意の言語学』くろしお出版. や S. Maynard (2002) : Linguistic Emotivity, Benjamins. のように、たんに「Hübler によれば、Bally が mode pur / mode vécu という対立を提唱している」というようなルースな孫引きでひろめている者がいるようだ。
 原著者が書いてもいないことが既成事実化してゆくメカニズムをまのあたりにしたような気がする。


 16時から19時30分ころまで入試実施委員会の業務があり、きょうのしごとは終了。

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 数日前のことだが、同僚の木田剛さんから、刊行されて間もないご著書をいただいた。プロヴァンス大学出版の≪Langues et langage≫叢書所収。讃嘆するばかりだ。

 今後は Linux にまつわることは≪おぼえがき≫( http://wjunya.blog39.fc2.com/ )に書くこととする。