日 録

まえの記事 つぎの記事
 一昨年12月から13か月間にわたって延々と続けてきて、この日録でもたびたび言及した主語不一致ジェロンディフの例文検索を、きのうの深夜(精確にはきょうの未明)完了することができた。
 たいへんな長丁場だったが、わたしとしては例外的に根気をたもち、とくに長距離通勤の往復の時間を利用して、編み物のように少しずつ進めることで、終わらせることができたので、感無量だ。おわらせたあと、自祝の晩酌をした。
 以前から調査していることをお話しし、お励ましをいただいていたかたがたに、昂揚した気分で紀念的に報告のメールを書いた。

gérondif

 パリ第5大学などの研究グル―プ Lexique が作成したコーパス、"Corpatext 1.02" のなかで、118の動詞のジェロンディフ形を網羅的に検索し、13か月かかってすべての生起に目を通して分類した結果は、総生起35475のうち、主語不一致は1483(不一致生起率4.2%)だった。
 不一致の生起の存在自体は多種多様な動詞に薄く広くひろがっているものの、とりわけ不一致が多い動詞というのも存在する。
 まず、全動詞中、en admettant だけは、不一致の生起のほうが一致より多いという例外的な動詞で、文法化がとくに進んでいることがわかる(この種の動詞については、主語不一致ジェロンディフ全般に関する論文とはべつに、論文を書くにあたいする)。
 しかし、全体的にみると、ときおりいわれるように主語不一致は「熟語的な固定表現」というのからはほど遠く、一定の生産性があるように思う。
 とくに、動詞の類型で全般に不一致率が高くなっているのは心理・認知動詞で、不一致生起率が12.7%と突出して多く、好まれやすい意味的なわく組みがあることをうかがわせる。
 それは、主語不一致ジェロンディフのかかってゆく支配節に明示的に現れるなら (1) のように経験者目的補語になるが、多くの場合は (2) のように明示されない「観察者」の視点からのべられている文であるということだ。

 (1) Que de larmes me viennent en pensant à vous [...] (Eugénie de Guérin)
   あなたのことを考えると、なんと多くの涙がわたしにやってくることか!
 (2) En regardant le feu, pendant des heures et des heures, le passé renaît comme si c'était d'hier. (Maupassant)
   火を何時間も見つめていると、過去がまるできのうのことのようによみがえってくる。

 観察者の行動をあらわすことから、主語不一致ジェロンディフには心理・認知動詞があらわれやすいことも説明できると思う((2) の regarder は心理・認知動詞ではなく知覚動詞だが、主語不一致のときに観察者の視点が問題になることは各種の動詞に共通している。そして、とくにその視点と協調しやすいのが心理・認知動詞であると考えられる)。
 もちろん、主語不一致ジェロンディフをひきおこすほかの条件(たとえば、支配節が非人称文であればほぼ自動的に不一致になるなど)もあるが、そうした他の条件があるときも、「観察者の潜在」という条件は重なって確認されるので、これを基本的な条件といってよいのではないかと考えている。
 すでにいくらか考え、書いてきたこととあわせて、春休み中に原稿を執筆するつもりだ。

 一昨日、日本フランス語学会の4月例会の発表者わくがいまだ空席と知り、もう少しで例文検索が終わることを確信していたこともあって、後期に予定していた発表を4月に繰り上げることを志願した。
 自転車操業をみずから課しているような状態になってきたが、大学院生に研究発表を積極的にするようさかんに勧めているわたしが、自分は奥に引っこんでいるようでは説得力がなくなるので、これでよいと思う。