日 録

まえの記事 つぎの記事
 最近、二十数歳もわたしよりとししたの学生のくちから、「友川かずき」という名まえをきいて、たいそうおどろいた。
 なぜ知っているのかときくと、ことしの5月から6月にかけて、ナインティナインの深夜ラジオ番組≪オールナイトニッポン≫でつよく推されていて、生出演、生演奏もしていたという。まったく想像がおよばないことだった。いま脚光をあびること自体、奇蹟的ではなかろうか。

 ♪トドを殺すな


 わたしの世代なら、初代≪金八先生≫のドラマのなかで、友川かずき本人が出てきて、劇中歌のようにつかわれていた≪トドを殺すな≫がなつかしいだろう。
 そして、≪トドを殺すな≫とならび称されるのが、≪生きてるって言ってみろ≫だ。

 ♪生きてるって言ってみろ


 伏し目がちで、すわったままの演奏。せき込むような、泣き笑いのような声なのに、これだけの迫力がある。内向的でありながら、それでもなお、おしとどめられずにあふれた激情が奔出してくる。
 この特徴を、友川かずきの出身地である、秋田の北方性とつなげる理解はありふれている。もっというと、秋田のなかでも北の、能代のひとだそうで、ほとんど津軽の入り口にあたる。はげしいギターのひきかたが、津軽三味線とあい通じるようにも感じられる、、、というのもありがちな話か。

 しかし、1970年代後半、友川かずきに、やや意外な支持者がいたことを知るひとはすくないのではなかろうか。それは、なんと、羽仁五郎だ。羽仁五郎は、友川かずきの≪生きてるって言ってみろ≫に共鳴するあまり、おなじ題名をおびた書物まで出していた。

P9240799

 ただし、羽仁五郎の『生きてるって言ってみろ』では、題名を借りたことが、とびらの裏にエピグラフのように引用された歌詞から知れるだけで、このなかに友川かずきは直接には出てこない。
 一方、それと近い時期に出たもう1冊の書物、『羽仁五郎の大予言』(この、あえて俗悪ジャーナリズムを自称するかのような題名が、じつはきらいではない(笑))のなかには、友川かずきが出てくる。
 しかしそこでは、淡谷のり子から、「酒をのんでうたうと、声帯が膨張して、そのときだけは声がよく出るけれど、のどを痛める。プロの歌手として歌いつづけたければ、酒をやめなさい」というようなお説教をされていて、しかも、このことについては、羽仁五郎も淡谷のり子に賛同していたので、苦笑してしまったものだ。
 次元がちがう。のどのために禁酒するような、いわば、技術的な顧慮をいっさい無視するほどであるからこそ、友川かずきの歌には気魄があるのではないか。それにくらべるなら、技術論は、どうしても浅薄にならざるを得ない。