日 録

 きのうときょうの記録をまとめてしるす。

 2014年6月24日(火)
 くもりときどき雨。
 関東一円で雷雨が頻繁に起きる不安定な天気の代償に、冷涼だ。
 調布あたりでは雹がふり、雪のように積もったらしい。
 しかし、幸運なことに、わたし自身が屋外をあるく時間と場所にかぎっては、うまく雷雨をさけることができ、一度も雨にふられなかった。

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 かねてよりの予定のとおり、髭郁彦さんを筑波におまねきして、講演会をひらく。
 大学院の授業の延長のような、こぢんまりとした会ではあったが、学外、それも横浜から聴きにきてくださったかたがいらして、たいへんおどろいた。

■講師
髭 郁 彦
(中央大学非常勤講師)

■題目
「意識と無意識の間で : 語る主体の理論的考察」
近代言語学の基盤を作ったソシュールの『一般言語学講義』とその影響を大きく受けたラカンの精神分析探究を中心的に考察しながら、モダリティ研究と深く関わる「語る主体」の問題を理論的に検討していく。

■日時
2014年6月24日(火)14時30分〜16時30分

■場所
筑波大学第1エリア1B210教室

 ラカンはソシュールをよく読み込んで、自説をはぐくむ際に生かしているらしい。
 しかし、ラカン研究者、ソシュール研究者は、精神分析、言語学という別の領域にわかれているので、それらの領域をまたいだ理解があまり進んでいないという。
 ラカンが主張する言語主体の多重性は、ちょうど、言語学のわく内で研究されているポリフォニーに比せられるものであると同時に、ソシュールの「ラング」を≪超我≫的な共同主観を通してとらえなおすような意義があると思われた。

 おわったあと、大学近隣の≪西安≫にゆき、ビールとハイボールをのみながら話す。
 ≪西安≫は本来は刀削麺の店なのだが、茄子と山椒の揚げ物が絶品で、これをたくさん食べて、たいそう満足した。

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 髭さんの講演会と、そのあとの飲み会が楽しかったことはいうまでもないが、それにくわえて、教育実習のため3週間留守にしていて、その期間をはさんできょうまで4週間も会えなかった院生の「えるたそ~」さんと再会でき、個人的にはとてもうれしい日になった。

 2014年6月25日(水)
 授業ひとこまと会議のため、筑波に出勤。
 きょうも、つくばエクスプレスの車内からは雨がふっているのをみたが、わたし自身が外にいるときは一度も雨にふられなかった。

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 ことしの4月にでたばかりで、註文していた Louis Guilloux : Souvenirs sur Georges Palante が到着した。
 かえりみち、Yannick Pelletier による13ページにおよぶ長文の序文をよむ。なかなか感動的だ。
 くもりときどき晴れ。蒸し暑い。

 午前中はこどもたちの小学校の授業参観。
 6年生の息子のクラスと、1年生の娘のクラスを往来する。
 6年生ともなると、授業内では教科教育に集中できる感じだが(じっさい、教科によっては習熟度別クラス編成だ)、1年生のクラスは、まず内容に関心をもたせないといけないので、たいへんそうだ。
 しかし、娘の担任の先生は幼稚園の教職免許ももっておられるとのことで、ちいさなこどもたちへの慈愛に満ちており、そのおかげか、授業にとりくませるのがとてもうまく、称讃の気もちをいだいた。
 (このうように書くと、職業的関心から先生がたや授業だけをみているのではないかといわれそうだが、もちろん、こどもたちのようすもよくみてきたつもりだ。そして、おおむね安心してかえってきた)

 午後はフランス語学会の例会があるので、小学校からもどってきたら、かばんの中身を入れかえ、早稲田に向かう。
 いつもは例会のまえに、同日開催の東京フランス語学研究会があるのだが、きょうは発表予定者が急病のため中止された。それも意識しておそめに出たはずだが、かなり時間があまった。
 馬場下交叉点にほどちかいカフェで、昼食にサンドウィッチをたべる。

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 例会ではまず、東北大学大学院生の新田直穂彦さんがおもに ajouter、donner と共起する代名詞 lui/leur と y の相違についての発表。
 もりだくさんの発表だったが、とくに興味をもったのは、ajouter にともなう y の場合、「場所」解釈が重要で、つぎのような文では ajouter する先を場所扱いしているということだ。

 Cuire à la poêle et y [*lui] ajouter en dernier lieu deux cuillerées de crème fraîche et vingt-cinq gramme de beurre. (新田さんのハンドアウトより)

 これについては、料理文では調理の過程をへて指示対象が変化する、いわゆる「推移的指示対象 référent évolutif」なので、代名詞の先行詞を la viande などに固定せずに、ゆるやかにさししめすことのできる「場所扱いの y」が好まれるのではないか、とわたしは思う。

 青山学院大学の France Dhorne 先生の発表。これをめあてに来られたかたがたが多かったようで、会は盛況だった。
 最近、RATPのバスの電光掲示に出る≪Je monte, je valide≫というスローガンと、それに類する文について。
 パリ市役所がかかげる、おもしろい実例がみられたので、スライドを撮影させていただいた。

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 これらのスローガンに出てくる je とはだれか。あるいは、だれが je と「言っている」のか。
 Dhorne 先生は、1人称単数が単独で(対話者なしに)あらわれていることから、いっさいの対立が排除され、問題のスローガンが、従うしかない命題としてたちあらわれるようになる、というようなお考えだった。
 ちなみに、この問題については、泉邦寿先生が「一人称のトリック的用法について」( http://web.keio.jp/~kida/hommage_kawaguchi.pdf )でとなえておられる説、すなわち、わたしの理解でまとめると、文字でのみ提示される je にはじまる文を読まされる側は、これをいわば「となえさせられる」ので、あたかも je promets... にはじまる遂行文 performatif を発したかのように、擬似的に約束、ないし宣誓の言語行為を果たす(ようにしむけられる)、という説明にわたしは納得している。

 例会には、2月11日の≪日録≫で言及させていただいた小川博仁さんが遠方からいらしてくださっていたので、おわったあと、高田馬場までもどるとちゅうの、西早稲田のカフェでしばらく話してから帰途につく。たいへんたのしい思いをした。
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 晴れて、暑くなる。

 筑波で午前中から授業をするべき日なので、都心までは超満員の通勤電車にのる。しかし、世のなかには、毎朝これをがまんしているひとが多くいるのだから、あまり文句をいってはいけないか。
 今週から、人文社会学系棟の耐震工事の今年度の対象部分からの立ち退きがはじまり、その引っ越し作業に利用をゆずるため、エレヴェーターが原則使用禁止になっている。
 出入りするとき、5階のわたしの研究室や、6階の専攻事務室まで、ひさしぶりに階段ばかりでのぼりおりしたら、以前には経験したことがないほどつらく感じるようになった。これを機に、今後もエレヴェーターにのらず、階段を利用するようにしようと決意する。

 3限に担当している授業は外国語センター開設のもので、春学期の平常授業はもうおわっている。それで、2限のおわる11時25分から5限のはじまる15時15分まで大きな空き時間ができる(筑波大学は75分授業で、かつ1限が8時40分にはじまるので、すべてが早め早めだ)。
 その時間は、食事のほか、雑務をかたづけたり、来訪の学生の質問にこたえるのに使ったが、あまりに長いので、つぎの授業を4限からと錯覚してしまった。13時45分に教室に行ったらだれもいない。はて、まちがって休講を予告してしまったかと考えて、しばらくしてから、あまりに早くきてしまったのだと気づいた(幸か不幸か、このようなことでも、無駄に校舎間を往復し、階段をのぼりおりする回数がふえる)。
 最近、粗忽の度合いが加速してきており、あやうい感じがする。

 17時ころ大学を出て、17時18分つくば発のつくばエクスプレスの快速で帰途につく。
 18時8分千代田線北千住発の多摩急行にのり、これですわったまま楽に帰れると思ったが、そうはいかなかった。乃木坂あたりで「小田急が運転見合わせのため、この列車は代々木上原どまりになります」というアナウンスをきく。
 インターネットの路線情報をひらいてみると、小田急相模大野駅で脱線事故がおきたという。こんなことは、たいへんめずらしいのではないか。

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 しかし、代々木上原につくと、さいわい、新百合ヶ丘まで運転を再開しているという。

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 急行の新百合ヶ丘ゆきがきたので、これにのったが、事故以前から走っていた電車が先につかえているらしく、なかなか進まない。
 20時すぎ、ようやく新百合ヶ丘についた。順調に来た場合にくらべて、1時間は余計にかかっている。
 新百合ヶ丘には、強制的に小田急から下車させられたひとびとがおびただしく、ここでは見たことのないほどの雑沓だった。ひとの波をかきわけて屋外に出る。
 タクシーのりばも絶対に長蛇の行列だと確信したので、見にゆきさえせず、自宅まで歩いてかえることにした。
 小田急に並走する道路は、ちょうど東日本大震災の日に見かけたように、電車にのるかわりに徒歩で自宅をめざすひとびとが多くいた。
 21時ころ、無事帰着。こんなことがあるたびに長距離通勤の難点だと思うが、きょうはたくさん歩いたから、健康的だと思うことにしよう。
 きょうは授業ひとこまをつとめたあと、会議に出て、最後にはわたしがとりしきるべき打ち合わせがあったが、なんとかつとめた。
 雑務に明け暮れる日々だが、きょうは唯一うれしいことがあった。

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 Emanuela Cresti (2000) : Corpus di italiano parlato, 2 volumi con 1CDR, Accademia della Crusca.

 刊行されてから14年もたっているので、もう手にはいらないかもしれないと思いながらも、この春先にいちおう註文しておいたところ、きょう、これがキタ━━━━━━゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚━━━━━━ッ!!!
 これで、イタリア語の話しことばのコーパスは検索し放題だ。時制や、非定形動詞、連結辞など、いろいろ調べたいことがある。こういうのを、ネットスラングで、「夢がひろがりんぐ」というらしい(笑)。
 最近、学内委員の業務でいそがしく、なかなか≪日録≫が更新できない。
 そのかわりというわけではないが、よしなしごとを、≪つぶやき≫(下線部をクリックすると別窓がひらく)にいくらかつづっている。
 ≪Twitter≫が出てきたころ、言説のいっそうの断片化をうながす装置だと思って、少なからず反撥を感じたものだが、なんのことはない、5年くらいおくれて、わたしもおなじ方向にながれているだけのことだ(≪FC2 PIYO≫は1記事あたり255字までで、140字までの≪Twitter≫よりは長めに書くことができるところがよいと思うが、このような比較を五十歩百歩というのだろう)。
 ともあれ、くたびれてはいるが、なんとか生存している。

 そして、そのあいだにも、季節は確実にすすんでいる。
 庭のラヴェンダーの花はますますあざやかなむらさき色になり、よい香りをただよわせている。

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 みつばちが、ラヴェンダーの蜜をあつめにきているのも例年どおりだ(つぎの写真の中央から少しだけ右下寄り)。小さくて、懸命なみつばちは、とてもかわいらしい。

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 サッカーのワールドカップ(ブラジル大会)がはじまった。わたしはまったく興味はなく、うるさく感じるほうだが、唯一話題にできることとして、10年ほどまえ、FIFA の略称のもとになったフランス語について知って衝撃をうけたことを思い出したので、書いておきたい。
 FIFA は Fédération Internationale de Football Association の略であるが、語末の Association がなにか、わからなかった。まさか、はじめの Fédération と同格ということはありえないだろう。当時同僚だった、比較的サッカーが好きなフランス語教員(スペインのバレンシアのチームを応援していた)さえ、「とても変な語順」と言っていた。
 その後しばらくしてわかったこたえは、football association がひとまとまりでサッカーというスポーツの正式名称である、というものだ。おなじ football でも、football rugby(ラグビー)と区別するため、サッカーを football association という。
 ニホンにこれらのスポーツがもちこまれれたとき、football association を「ア式蹴球」、football rugby を「ラ式蹴球」と訳していた。いまでも、ながい歴史をもつ大学などのサッカー部は「ア式蹴球部」、ラグビー部は「ラ式蹴球部」と称しているところがある。
 おとといときのう、東京ではにわかに真夏日になった。
 梅雨まえに、いきなりこのような暑さが襲来すると、からだにこたえる。きのうなどは、熱中症の一歩手まえだったかもしれず、頭痛になやまされた。

 庭のラヴェンダーはますますあざやかに色づいてきた。

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 コンクリートのわずかなすき間の、イレギュラーなところに種がとんで、そこからはえてきたラヴェンダーの花が、ふしぎなことに、いちばん元気なような気がする。

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 きょうは学類での委員の、わたしの前任者の慰労会と称して、筑波大学近隣の≪蛇の目寿司≫で昼食をいただいた。とてもおいしかった。
 わたしの担当はこれからが本番なので、きょうの会をはげみに、また奮闘してゆきたい。

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 わたしも執筆者11人のうちのひとりとしてくわわった『フランス語学の最前線』第2巻のできあがりが到着した。440ページほどあり、存在感がある。

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